印象派とポスト印象派の違いとは何か?【瞬間の印象派と分岐のポスト印象派】

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クロード・モネ「睡蓮」(1916年) 国立西洋美術館蔵

印象派とポスト印象派の違いとは何か?どちらも似た名称を持つ芸術運動である印象派とポスト印象派。しかし、その本質は全くの別物なのか。それぞれの代表的な画家であるモネとゴーギャンの作品を例に解説。

印象派の「瞬間」

印象派は、1860年代のフランスで起こった芸術運動である。

印象派の特徴としては、対象を詳細に模写するのではなくて、「瞬間」を描くという点である。

印象派の絵画を見てもらうとわかるのだが、彼らの作品では対象の輪郭や境界線といった細部を丁寧に描写していない。彼らは、対象そのものを描くことを目的としているのではなく、対象を包み込む光やその場の空気感をキャンバスに残そうとしている。

そのため、印象派の作品は写実主義の作品よりもより直観に訴えかけるものになっている。つまり、鑑賞者は描かれた対象の具体的な形や細部に注目するのではなく、作品自体から感じられる印象・雰囲気を感じ取ることに専念するようになるということである。

的確な視覚情報ではなく、その場の光や空気感といった「瞬間の産物」を描写することに注力した印象派の作品は、写実主義の作品よりも圧倒的に人間のリアルな感情を映し出すのだ。

印象派の作品は、発生した当初は多くの批判の対象となった。これは、これらの作品が近代の写実主義の鉄則となっていた遠近法を無視していたことなどが原因として挙げられる。

しかしながら、日常をより感情的に表現した印象派の作品は徐々に人気を博していき、当時の民衆の心を完全に鷲掴みにした。現在に至っても彼らの作品は高い人気を誇っており、色あせることのない名作の数々といえる。

印象派に属する主な画家としては、エドゥアール・マネ、クロード・モネ、ルノワール、エドガー・ドガなどが挙げられる。

ちなみに、この印象派という呼び方は、クロード・モネが1872年に発表した「印象・日の出」という作品をもじってつけられた。以下で、印象派の始まりとなった彼の作品を見てみよう。

クロード・モネ「印象・日の出」

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クロード・モネ「印象・日の出」(1872年) マンハッタン・モネ美術館蔵

印象派の始まりとなった、クロード・モネの「印象・日の出」(1872年)。

1872年に描かれたこの作品は、1874年にパリで行われたグループ展で初公開された。

この作品の舞台となっているのは、モネの故郷であるフランス北西部にあるル・アーヴル港である。画面奥には港施設があり、そこから作品手前まで一面に海が広がっている。二つの小舟が見え、何人かが乗っているのがわかるが、影となっていてよく見えない。港施設上部の空には綺麗な朝日が昇っており、朝日の光が周りの雲や水面に反射している。

この作品の最も注目すべき点は、朝日の光の表現であろう。

先ほど、印象派の特徴として述べた通り、この作品でも対象の輪郭が明確に描かれておらず、対象ごとの境界が曖昧になっている。その理由は、この作品が朝日の光を中心としているからである。

画面奥の港施設はなんだかぼやけていて、実際にどのような形をしているのかを確実に想像することは困難だ。また、空と海の境界線は明確ではなく、まるで二つが一体化しているような印象を受ける。これらはすべて、朝日の光が作品全体を包み込んでいることが要因となっている。

この作品で、光は鑑賞者を明確な視覚的情報から遠ざける役割を担う。そのため、鑑賞者はこの作品を通してル・アーヴル港の具体的な姿を想像するのではなく、自然とモネがこの光景を眺めていたときに感じていた静寂、空気、光、安心といったような、その場の「瞬間」を捉えようとする。

あえて視覚的情報を減らして光や空気感を描くことで、鑑賞者は瞬間的な感情を感じ取る。これこそ、モネがこの作品を通して鑑賞者に訴えかけたかったことなのである。

ポスト印象派の「分岐」

1860年代にフランスで起こった印象派の発生から数十年後、19世紀後半から20世紀初期頃にかけて再びフランスで起こった芸術運動がある。それが、ポスト印象派である。

ポスト印象派とは「印象派以後」という意味であり、後期印象派と呼ばれることもある。

ポスト印象派の特徴を一言で表すと、印象派の影響を受けながら分岐していった画家たちの総称である。

写実主義を真っ向から否定し、光や空気感の描写に徹した印象派は、当初こそ批判が多かったものの世間から高い評価を受けるまでにいたった。しかしながら、1886年に行われたグループ展を最後として、印象派の活動は息を潜めていった。

そんな印象派と入れ替わりのような形で、ポスト印象派が台頭し始めた。ポスト印象派は、光の表現に注力していた印象派の影響をうけつつも、一方で印象派が写実主義を否定して対象を明確に描かなかったことに対しては疑問を抱いていた。

そこで画家たちは、印象派のように「瞬間」を前面に押し出すのではなく、それぞれが独自の方法で光を表現しようとしたのである。そのため、ポスト印象派に分類される画家たちの作品はどれも個性的であり、彼らの作品を一概に形容することはできない。

ポスト印象派の代表的な画家としては、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌ、スーラなどが挙げられる。

ではここから、ポスト印象派の代表的な画家であるポール・ゴーギャンの作品を見てみよう。

ポール・ゴーギャン「黄色いキリスト」

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ポール・ゴーギャン「黄色いキリスト」(1889年) バッファロー AKG アート・ミュージアム蔵

今回、ポスト印象派の作品例として取り扱うのは、ポスト印象派を代表する画家ポール・ゴーギャンの「黄色いキリスト」(1889年)である。

この作品では、イエス・キリストの十字架像の周りで、ブルターニュの伝統衣装を着た3人の女が祈りを捧げる姿が描かれている。

この作品の特徴的な点は色使いだろう。十字架像がある地面や背景の丘の草むらが、かなり純度の高い黄色で描かれている。その上、キリストの体の色までもがそれに呼応するかのように同じ黄色である。

キリストの体はさておき、少なくとも背景の黄色からは印象派の影響が感じられる。草の影が一切描かれておらず、大陽の光が反射している部分を強調させており、そのため全体的に明るい印象が受けられる。

しかし、この作品では印象派と異なり対象の輪郭がくっきりと描かれているため、印象派の作品とは一線を画している。すなわち、ゴーギャンは印象派の光の強調を受け継ぎつつも、完全に印象派を継承せずにあくまでも独自の方法で描いているのである。これが、ポスト印象派の特徴である。

印象派とポスト印象派の違いとは何か?

光や空気感を描写することで「瞬間」を大切にした印象派と、印象派を部分的に受け継ぎつつも独自の道へと「分岐」していったポスト印象派。

名称が似ていることから、両者はほとんど同じ芸術運動であると考えている人も少なくないだろう。しかしながら、実際には表現の目的の時点で大きく異なっているのである。

そもそも、それは彼らの作品を一度見ただけでもわかることだ。なぜなら、印象派の作品とポスト印象派の作品から受ける印象はまったくの別物だからである。

印象派とポスト印象派。これら二つの芸術運動は、本質的かつ視覚的に異なる。これから彼らの作品を鑑賞する機会があれば、ぜひこの違いを頭の片隅に置きながら楽しんでもらいたい。

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