108フラワーズはなぜ人気なのか?世界的な現代美術家である村上隆が手掛けるトレーディングカード「108フラワーズ」。彼のトレカはなぜ世界中でここまでの人気を集めているのか?アートとトレーディングカードを融合させた村上隆に迫る。
トレーディングカードの起源
「スーパーフラット」という独自の芸術理論を展開し、日本のオタク文化をポップアートに取り入れたことで世界に旋風を巻き起こした現代を代表する美術家である村上隆。
そんな彼が、2023年から本格的に参入したのがトレーディングカード業界である。
村上隆が率いるカイカイキキが制作したトレーディングカード「108フラワーズ」は、発売されるやいなや大人気を博し、現在においても熱心なコレクターによって高額で取引されている。
「108フラワーズ」は、もともと村上隆の《Murakami.Flowers》と呼ばれるNFTアートのデザインをトレーディングカードに落とし込むことによって生まれたものである。
トレーディングカードが最初に登場したのは、1880年代のアメリカである。「アレン&ギンタ-」というタバコ会社が、自社のタバコに野球選手や有名人などのイラストが描かれたカードを同封し始めたのである。
それから、未成年によってカード目的でタバコが購入されるようになるなど、カードの登場は瞬く間に人々にコレクション・ブームを巻き起こした。
日本にも、1950年過ぎに野球選手が描かれたカードが誕生した。そこから、日本のトレーディングカードは野球選手だけでなくアニメや漫画のキャラクターなどが描かれたものへと進化を遂げていったのである。
コロナ禍とトレカ投資
近年ますます熱を帯びているトレーディングカードであるが、その理由の一つに「トレカ投資」の存在がある。
全世界にパンデミックを引き起こし、私たちのライフスタイルに大きな影響を与えたコロナウイルス。コロナ禍になり、人々は外出制限をかけられ、友人と外食したり旅行する機会が激減した。
このことは、ポケモンカードなどの対面で対戦を行うカードゲームにとって非常に大きなダメージとなると思われたのだが、実際にはポケモンカードをはじめとするトレーディングカード業界は非常に大きな飛躍を遂げた。
その理由は、お金と時間の増加である。外出制限がかけられたことにより、人々は外出先で散財することがなくなり、またそれによって家で暇な時間を過ごすことが増えた。
その結果、人々はあまり余ったお金を副業的な感覚で投資に回すようになった。そこで、目を付けられたのがトレーディングカードだ。
レアなカードとなれば将来的に一枚で数千万円にもなるトレカは、もはや株式や投資信託と変わらない金融資産となり得る。人々は、投資目的でポケモンカードなどのトレーディングカードを買い集めることに目覚め、トレーディングカード業界は大いに盛り上がることとなった。
それに加えて、誰もが知る有名人がポケモンカードを数千万円で買ったりするなど、それまでは大部分の人々とは無縁であったトレカがかなり親しみのある存在となったのである。
トレーディングカードはアートの庶民版
現代美術家である村上隆がトレーディングカード業界に参入したということは、一見すると理にかなっていないようにも思えるが、実はそんなことはない。この主張の背景には、主に二つの根拠がある。
一つ目の根拠は、投資商品化である。本来、アートは作品のコンセプトや視覚的美を楽しむことが目的とされ、経済的側面とは切り離されるべき存在であるが、現実ではアート作品は富豪たちの間で高額で売買されており、完全にマネーゲームの商品と化している。
一方、トレーディングカードも本来であれば個人で収集を楽しむものであるが、先述した通り、将来的な値上がりを狙って購入するなど、投資商品としての側面が強くなってきている。このように、アートとトレカはどちらも投資商品として扱われているという共通点があるのである。
二つ目の根拠は、付加価値の付き方だ。すでにアート市場で高い需要のあるアーティストの作品は、より高額となる場合が多い。同様に、コレクターから人気のキャラクターがデザインされたトレカは、そうでないトレカの何倍もの価格が付けられる。
また、作品数が少なく希少性の高いアーティストの作品は高騰する傾向にある。これも同様に、市場に出回る数が少ないトレカはその分高い価格が付けられる。このように、アートとトレカは付加価値の付き方においても非常に類似しているのだ。
これらの点から、トレーディングカードはアートの“庶民版”であるということができる。富豪たちがアート売買に莫大な金額を使うのに対し、そこそこの余剰資金がある人々はトレカの売買にそこそこのお金を使う。
結論として、現代美術家である村上隆がトレーディングカード業界に参入したことは妥当のことなのである。
「朝ぼらけちゃん」と日本のオタク文化
「108フラワーズ」の中でも圧倒的な人気を誇っているのが、「朝ぼらけちゃん」である。
朝ぼらけちゃんは村上隆のオリジナルキャラクターであり、お花のキャラクターである「Flowers」がメインとなっている「108フラワーズ」に登場する数少ない人物キャラクターである。
この朝ぼらけちゃんのレアカードの価格は異常なほどに高騰しており、一枚で数百万円もの値が付けられることもある。
一体、なぜこのキャラクターがここまで人気となっているのか。その理由には、村上隆の最重要テーマであるオタク文化がある。
村上隆が現代アートに取り込んできたオタク文化を象徴するものは「女の子」である。「Miss Ko²」(2007年)など、彼は女の子を題材としてこれまでに様々な作品を制作してきた。
女の子をオタク文化の中心に添えてきたのは村上隆だけではない。アニメや漫画の人気を支えるのは、必ずといっていいほどヒロインの女の子である。可愛い女の子は、日本のオタクたちにとっても常に中心的な存在であり続けてきた。
このように、日本のオタク文化の根幹をなすのは可愛い女の子なのだ。そんなオタク文化のど真ん中をいく朝ぼらけちゃんが、コレクターから並々ならぬ人気を博していることに異論の余地はないのである。
スーパーフラットとトレカの親和性
村上隆が提唱する芸術運動である「スーパーフラット」は、主にアニメやポップカルチャーのように遠近法が使われない平面的・二次元的なものを指し示す表現である。村上隆はこのスーパーフラット理論に基づいて「二次元」的な作品を制作している。
そして、今回彼が参入したのがトレーディングカード業界だ。トレーディングカードもまた、アニメや漫画と同じように「二次元」である。
先述した通り、アートとトレーディングカードには投資商品化と付加価値の付き方の面において類似性が見られることから、村上隆がトレカ制作に踏み切ったことに合理性が見られた。
しかし、実際にはそれだけではなかった。村上隆がこれまで構築してきた独自の芸術理論とトレーディングカードに「二次元」という共通点があるように、スーパーフラットにとってトレーディングカードはかなり親和性の高いアイテムだったのである。
108フラワーズはなぜ人気なのか
村上隆の世界観を存分に堪能することができる「108フラワーズ」。彼の手掛けるトレーディングカードは、なぜここまでの人気を集めているのだろうか。すでにその理由は明白となっていることだろうが、念のため最後にまとめておこう。
まず一つ目の理由は、コロナ禍を経て一気に過熱したトレカ投資である。トレーディングカードの投資商品化が流行したことにより、本来トレカに関心のなかった人々までトレカを買い集めることとなった。
二つ目の理由は、「朝ぼらけちゃん」に代表される村上隆の世界観が日本のオタク文化を根底におくことで構築されていることである。そんな彼の生み出す「108フラワーズ」が、日本のコレクターの嗜好に合致したことに疑問の余地はない。
そして最後の理由に、彼の提唱する「スーパーフラット」とトレーディングカードの親和性が非常に高かったことが挙げられる。そもそもトレカ自体がオタク文化の一部であるという言い方もできるが、彼の芸術理論とトレカに共通の性質があることにより、ここまで彼のトレカが完成度の高いものに仕上げられたということができる。
世界的な現代美術家である村上隆がプロデュースした「108フラワーズ」。彼の手掛けたトレーディングカードがこれほどまでの人気を博しているのには、れっきとした理由があったのである。
出典
・NHK クローズアップ現代「1枚が数億円に!?トレーディングカード急騰の舞台裏」2023年2月13日(月)
同工異曲・・・(詩歌・文章・音曲などで)手ぎわは同じであるが、とらえ方・趣が違うこと。また、違っているようで実は大体同じようなこと。(出典:Oxford Languages)
コメント