20世紀最大の画家であり、近代芸術に大きな革新をもたらした画家パブロ・ピカソ。そんな彼の代表作の一つである「ゲルニカ」(1937年)が伝えたいこととは何なのか。「ゲルニカ」から読み取れるメッセージを様々な観点から解読していく。
ピカソの反戦絵画
20世紀最大の画家であり、近代芸術に革新をもたらしたパブロ・ピカソの代表作の一つである「ゲルニカ」(1937年)。
この作品は、1936年から1939年まで続いたスペイン内戦を題材としている。スペイン内戦は、1936年に行われたスペイン総選挙の結果スペイン人民戦線内閣が成立したのに対して、フランコ率いる軍部が反乱を起こす形で開始した戦争である。
このスペイン国内での争いに対してイギリスとフランスは干渉しないとしていた一方で、ファシズムが台頭していたドイツ・イタリアはフランコに援軍を送ったのだ。
そんなフランコ率いる反乱軍の標的となった町の一つが、バスク地方のゲルニカであった。1937年に反乱軍はゲルニカに対して空爆を行い、多くの犠牲者を出すことになったのである。
ピカソ作「ゲルニカ」は、スペイン内戦によって甚大な被害を被ったゲルニカを題材とした「反戦絵画」である。以下で、「ゲルニカ」が鑑賞者に本当に伝えたいことは何かということについて詳しく解説していく。
ゲルニカの構成要素
「ゲルニカ」では、大きな画面の中に様々なものが描かれている。今回は、その中でも特に注目すべき点を取り上げてみよう。
電球(目)
まずは、画面上部に描かれた目のような形をした電球のようなものである。これからは、二つの意味が汲み取れる。
一つ目は、空爆である。ゲルニカは、ドイツ・イタリアの連合軍から三時間にもわたって空爆を浴びせられたことにより壊滅的な被害を被ることになった。この電球のようなものから出ている光が、空爆による閃光を表していると考えられる。
二つ目は、反乱軍の目である。フランコが率いる反乱軍は、ドイツ・イタリアなどの協力を得ていたことから強大な兵力を備えていた一方で、ゲルニカに住む人々はそれまで戦争とはかけ離れた平穏な日々を過ごしていたため、十分に抵抗する力を持っていなかった。
このように、圧倒的に優位に立つ反乱軍がゲルニカの人々を支配下に置いていたことを暗に示しているのが、部屋の上部にある目であると考えられるのだ。
折れた剣と花
続いては、画面下部に描かれている折れた剣と花である。
まず折れた剣は、抵抗力を持たないゲルニカの人々が反乱軍に完全に制圧されてしまったことを表していると考えられる。また、戦争を象徴する剣が折れてしまっていることから、戦争そのものが脆く儚いものであることを示していると捉えることもできる。
一方で、折れた剣のそばで咲いている花は、そんな悲惨な戦争の最中であっても微かに希望を持つ人々の存在を表していると考えられる。しかしながら、その花でさえ今にも枯れてしまいそうである点から、戦渦での希望がいかに小さいものであるかを感じることができる。
“キュビズム的”に描かれたことで起きること
ご覧の通り、「ゲルニカ」は写実主義に基づいて描かれていない。しかし一方で、キュビズムに基づいて描かれていると断言することもまたできない。
確かに、作品の中でキュビズムのように幾何学的に描かれている部分が数多くある。しかし、そもそもキュビズムの目的は“対象を複数の視点から分解して観察する”ことにあり、この作品においてピカソのそのような狙いは読み取れない。
ただし、意図的でなくともピカソがキュビズムから少なからず影響を受けていることはわかる。それでは、「ゲルニカ」が“キュビズム的”に描かれたことによって一体どのようなことが起きるのだろうか。
この作品では写実的な描写がされていないため、実際の血や死体といった生々しい表現が制限されている。このことにより、この作品の“視覚的インパクト”が抑えられているの。
これは何を意味するか。鑑賞者は、外見的要因である視覚的インパクトによってこの作品を評価するのではなく、内面的要因であるこの作品の持つ“メッセージ性”により注目するのである。
また、対象がキュビズム的に描かれていることで画面の“複雑性”が増しており、これによって鑑賞者はこの作品の“解読”に神経を集中させる。このことで、鑑賞者はピカソがこの作品に込めた“反戦の意思”を改めて強く実感することになる。
「ゲルニカ」がキュビズム的に描かれていることによって、鑑賞者はこの作品を表層的に観るのではなく、もっと深層的に観る、すなわち、“この作品が何を伝えようとしているのか”ということを読み解くことに没頭するのだ。
なぜ部屋の中なのか
さて、「ゲルニカ」はスペイン内戦におけるバスク地方の小さな町ゲルニカの惨状を題材とした作品であるが、この作品を鑑賞しているときに一つ気になることがある。
それは、なぜこの作品が“部屋の中”で構成されているのかということである。よく見てみると、画面右部に扉が描かれていること(下記参照)が確認でき、また先述した電球が天井のあたりに描かれていることからも、これらの人物や動物がすべて一つの部屋の中に描かれていると考えることができる。
ピカソが意図的に部屋のように描いたのかは不明だが、少なくともこの作品を鑑賞していると、人々や動物が一つの狭い部屋の中で苦しんでいるように感じられる。
これについて、二つの考察が挙げられる。一つ目は、戦争での逃げ場のない恐怖を表すことである。小さな町であるゲルニカが大勢力の反乱軍によって制圧されたとき、どこにも逃げ場が残されていなかった人々はまるで狭い部屋に閉じ込められているような圧迫感を感じていたことだろう。
二つ目は、この作品が実際の戦争現場を表すものではなくあくまでも“象徴”にすぎないということの主張である。先述した通り、この作品はキュビズム的に描かれていることによって、戦争をよりリアルにイメージさせる視覚的インパクトよりも、そのメッセージ性が強調されている。
「ゲルニカ」で描かれている惨状が“部屋の中で起こっていること”とすることで、この作品は実際の戦場をただ単に描写するものではなく、スペイン内戦を取り上げることによって戦争をやめて
ゲルニカが伝えたいこととは何か
近代芸術の巨匠・パブロ・ピカソの代表作の一つである「ゲルニカ」(1937年)。この作品が鑑賞者に伝えたいこととは何なのだろうか。
まずは、戦争の恐ろしさである。この作品の題材となったスペイン内戦によって、バスク地方の小さな町であるゲルニカに住んでいた罪なき多くの人々が犠牲となった。この作品が、戦争がいかに破壊行為を伴うものであるかを示すと同時に、戦争が多くの人々の命を奪う残酷なものであるということを伝えようとしている。
また、ピカソの平和への希求も挙げられるだろう。先述した折れた剣のそばに咲く花からわかる通り、この作品が戦争は悲惨な結果を生むものであることを伝えながらも、それでも微かながらに希望は残されていることを信じようとするピカソの思いも感じ取ることができる。
それと同時に、この作品は、そもそもこのような戦争が起こってはいけないというピカソの反戦精神の象徴にもなっている。
キュビズム的に描かれていることで一見支離滅裂な作品のようにも見えかねない「ゲルニカ」であるが、この作品は戦争に対するピカソの強い抵抗の意思が込められた作品なのである。
参照
世界史の窓「スペイン内戦/スペイン戦争」
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